とある作家さんに聞いた話。
フリーライターという仕事をしていると、いろんな出会いがあります。先日、知人の紹介でとある男性作家さんと飲むことになりました。けっこうな有名な方だったのでドキドキ。
私はほとんど文芸についての仕事をしてこなかったので、作家さんから聞く話はどれも新鮮。とても貴重な時間を過ごさせてもらいました。
が、慣れないお酒を飲んだせいか、気がつくと決してプロの作家さんには言ってはいけないことをつぶやいている自分がそこにいました。
「私も昔、小説家になりたかったんですよー。今からでもなれますかね?えへへ」
たぶん作家さんを前にして私は緊張してたんでしょうが、それにしても恥ずかしい。うわーー。小説なめんなよと殴られても文句はございません。
しかし、その作家さんは笑顔で「小説家の養成スクールとか通ったことある?」とポツリ。私が「いやいや、ちょっと学生のころに憧れていたくらいで」と慌てて返すと、
「じゃあ、もしも今後、小説を書きたくなったときのために、いいことを教えてあげるよ」
お酒の席でしたが、急に背筋がピンと伸びる私。
「それは、自分を主人公にしないこと。むしろ自分が嫌いな人をイメージして、そいつを主人公にすると、きっと面白い小説が書けるはず」
つまりは、みんな小説を書こうと思うと、自分や自分の家族、仲の良い友達をモデルにして、主人公や重要な登場人物にしがちだけど、そうすると「リミット」がかかってしまうのだとか。
「自分を主人公にすると、どうしても良い人に描いてしまう。自分の恋人をヒロインにすると、酷い殺し方ができなくなる。誰か知り合いをイメージすると、無意識のうちにリミットがかかっちゃう。
でも、初心者がまったくゼロから登場人物を創り出すのは難しい。だから自分が大嫌いな誰かをモデルにして物語を作ってみる。すると、初心者でも不思議と面白くなる」
作家さん曰く、これは誰でも知ってるすごく初歩的な話らしいのですが、私にとっては目からウロコでした。そして、改めて今から小説家になれますかねーなんて失言が恥ずかしくてたまらなくなりました。
でも、いつか何かの機会で私が本気で小説を書いてみたいと思った時には、大嫌いなあいつのことを主人公にして、めちゃめちゃハードコアな物語を作ってやろうと心に誓いました。
みなさんには、小説の主人公にしたいほど、大嫌いな人はいますか?
了