※この投稿は2015年8月に書かれたものです。
なぜ文章や写真をパクるとみんな怒るのに漫画のコマにはゆるい?
ネットが発達した現在、「パクる」「パクられる」は当たり前の世界です。が、それでもやはり「パクるのは良くない」と、いろんな人たちが議論をし、どうにかしてパクりを防げないかとあれやこれやと日々、考えています。
写真を無断で転用したり、文章をコピペしたり、オリンピックのロゴデザインを作ってみたり……。仕方ないと諦める人もいる一方で、絶対にゆるさないとい人もいる。
でも、ふと思うのです。
みんな、漫画のコマを勝手に掲載することには「ゆるくないか」と。
漫画家の方たちが一枚一枚、死ぬ気で描いたコマです。それは、カメラマンが撮影した写真、小説家が書いた文章、ミュージシャンが作った歌詞やメロディと同じく、大切に扱われるべきなのに、無断で掲載することに対して罪の意識がまったくない。悪いことをしているという自覚もない。素人ブロガーの書いたブログの一文を引用とせずに書いただけで大騒ぎする人たちなのに。
特にネット上のブログにおいて「漫画のコマの無断使用に、どうしてみんな怒らないんだろう?」と、最近すごく感じるようになりました。
なんの工夫もない紹介の仕方で、勝手にコマを載せまくっているブログを多く見かけます。別にこうしたブロガーの方たちになんのうらみもないですし、同じようなことをしている方は無数にいます。ただ、不思議に思うのです。勝手にコマを使いまくったエントリーに対して、否定的なコメントがひとつもないことを。
なぜ人々は漫画のコマをパクることにだけ、寛容なのでしょうか。
雑誌に「他社のマンガのコマを載せる」のはものすごい苦労が必要
とはいえ、私は別に漫画家や漫画編集者ではないので、いかに漫画を作るのが大変で、著作権として守らなくてはいけないかということを語るつもりはありません。
ただ、ライター&編集者の仕事をしてきて、これだけは言いたい。
他の出版社に漫画のコマを借りるの、めっちゃ大変なんです!!いや、ホントに。
私は以前、女性向けのファッション誌で編集兼ライターとして仕事をしていたのですが、読み物記事で漫画を扱う特集を担当することがよくありました。例えば、「少女漫画の胸キュン台詞特集」とか「絶対泣ける漫画の名シーンBEST50」みたいな。けっこう色んな雑誌でみかけると思います。
そういった特集を組む際、他の出版社にコマの掲載許可を申請するのですが、これが本当にツラい。ツラい理由は大きく3つ。
まず1つ目が「なんでライバルである出版社にウチの作品を貸さなきゃいけないのか?」というのが前提としてあること。もちろん、売り出し中の漫画だったりすると、宣伝になるからどんどん載せてくださいという寛容なところもありますが、別にいまさらおたくに掲載してもらっても、うちにメリットがない、と断られるケースもけっこう多いです。
2つ目がコマの使用料。タダで貸してくれるケースもある一方で、特に大きな出版社で著作権まわりの部署がしっかりしているところは、けっこう法外な値段を請求してくることもあります。1コマで数万円とか!(ホントに)。こうなるとページ予算と合わず、なくなく断念することも。「この漫画のコマがないと、企画として成立しなくなってしまう……しかし、予算が……」と泣く泣くお蔵入りとなったこともあります。
そして、3つ目の理由が、「貸してくれるのか、貸してくれないのか、とにかく返事が遅い」ということ。漫画のコマを借りる際、どのように他の出版社に連絡するかというと、1つが編集部に直接連絡する、2つ目が先ほど書いたように権利を扱う部署に連絡するといういずれかになります。
で、編集部の担当に連絡する場合、とにかく返事が遅い。それもそのはず、相手だって激務です。私たちがコマを貸してくれって言ったところで、そんなことよりも自分の今ある締め切りのほうが優先。だからとにかく返事をくれない。同じ出版社どうし激務なのはわかるので、こちらとしても「早くしろ」とは言いづらい。
で、こんな大変な作業を、特集によっては、ひとつの出版社だけでなく、複数の出版社に同時並行でお願いしていくわけです。いやー、胃がキリキリする感覚というか、いろんな意味でしんどい。さらに、無事に借りられてもゲラチェックも待ち構えています。
だから、漫画のコマを貸してもらうというのは、本当に大変な作業なのです。
出版社は勝手に載せる輩にお金を請求すればいい
というわけで、いかに漫画のコマを借りるのが大変かをつらつらと書いてみましたが、私の個人的な意見として、勝手にコマを載せる人に対して、出版社はお金を請求するべきだと思います。
たとえば、あるブログの方は10枚くらい載せていて、しかもジョジョ(集英社)なので、たぶん本来なら10万円近く払うべき。
いまやどの出版社も不況です。勝手に載せる輩からお金を要求して、その分で素晴らしい作品を作るお金にまわせば、もしかしたら世に出なかったはずの新人漫画家に光があたり、後に素晴らしい漫画家に成長するかもしれません。
もちろん、「これは漫画の宣伝になる」というのであれば、勝手なコマ使用を黙認するのも戦略のひとつでしょう。
しかし、なんのひねりもなく、クソつまらない、ただ無断でコマを勝手に載せて、おまけにブログの広告で稼ごうとする盗人に対しては、きちんとお金を請求すべきなのではないでしょうか。一応、「引用」という範囲であって「主従関係」が明確であれば載せることはできるみたいですが、著作権違反は権利者からの訴えがないと公訴できない親告罪だそうで。なんとかならんのかね、これ!
……と、漫画関係者でもないくせに、だけど漫画のコマを借りるので毎回死にそうになっていた人間なりの、漫画のコマ無断使用についての私見でした。