男「(ピンポーン)すみませーん!」
私「どちら様でしょうか?」
男「宗教法人『鵺の叡智の計』の者です」
私「ぬえの?」
男「ぬえのえいちのけい、でございます」
私「はぁ、何の用です?」
男「おたくさまは神棚をお持ちですよね?」
私「それがなにか?」
男「神棚をお持ちであれば、我が宗教法人『鵺の叡智の計』にご入会いただかないと。そして毎月お布施をいただく決まりとなっております」
私「え、なんでですか?」
男「すべての神棚はわたくしどもの崇める大御神様とつながっているからです」
私「いや、私はあなたたちの大御神様とやらに祈ってませんよ」
男「さきほどお祈りする音が聞こえましたが」
私「たしかに、商売繁盛を祈願してパンパンって手を合わせましたけど。別にあなたたちの神様にじゃないし」
男「さきほどはそうなのかもしれないですが、あなたが神棚をお持ちということは、いつでも大御神様にお祈りできる状態なのです」
私「だからって?」
男「これは決まりなのです」
私「みんな、そのお布施とやらを払ってるんですか?」
男「いえ、すべての方ではありません。なので、こうして私がお宅を訪問して入会をお願いしております」
私「じゃあ払ってない人もいるんですよね?それなのに私が払うのはおかしくないです?」
男「決まりですので」
私「だったら、神棚を買ったタイミングでお金を払えって言えばいいじゃないですか。そうすればわざわざあなたが訪問する必要もないし。あなたの給料だって、そのお布施から支払われてるんですよね?神棚を買った時に払うようにすれば、取りっぱぐれも無くなるんじゃない?」
男「チッ、ゴニョゴニョ(そーすると、神棚が売れなくなるし、神棚メーカーがお布施を値下げしろって言ってくんだよ。だいたい、俺の給料なんて雀の涙だよ。幹部だけだよ、年収1000万超えてんのは。ごちゃごちゃ言ってねーで、早く払えや、このアマ!)」
私「え?なんて?」
男「いえ。決まりですので、なにとぞ」
私「決まりと言われても。本当にあなたたちの神様には祈ってないし。例えば、神棚はあるけど、あなたたちの鵺の、なんでしたっけ?」
男「宗教法人『鵺の叡智の計』でございます」
私「その『鵺の叡智の計』の神様には祈りが届かないようには出来ないの?」
男「技術的には可能でございます。実際、別でお布施を頂戴いただければ、通常ではお祈りが届かない、より高貴な大御神様にお祈りすることができます。ご希望されますか?」
私「いやいやいや、いらないし。だったら、私の神棚はあなたのところの神様にお祈りが届かないようにしてくださいよ。私のは他の神様に祈るんで」
男「お客様!」
私「っ?」
男「もしも大地震や大災害が来たら、どうするんですか?他の神どもはあてになりません。神棚からの祈りをいち早く正確に受け取るのは、私ども宗教法人『鵺の叡智の計』の大御神様なのです」
私「いや、大丈夫だって言ってんの。そういうのを求めている人も確かにいるでしょうけど、その人たちからちゃんとお布施をいただけばいいじゃないですか。私には必要ないんだよ!」
男「なりません!すべての人々を救うのが私ども宗教法人『鵺の叡智の計』の務めなのです」
私「すべての人って。だったら税金で取ればいいんじゃ?」
男「……(そうすると色々うるせぇんだよ)
私「だいたい神棚なんて、いまどきすべての人のものじゃないでしょ?」
男「そうした場合は御守りをお持ちの方からもお布施を頂戴することになります。お祈りが通じるものならなんでも。この国のすべての人のために私どもはいるのです」
私「なんかめんどくさいなー。でも、お祈りが届かないようにできるんでしょ?だったらそうしてよ。てか、すべての人のためっていうなら、大災害とかの時だけ、お祈りが届くようにしてくれたらいいじゃん」
男「お客様、それは虫がよすぎます。きちんとお布施をいただかないと」
私「だ〜か〜ら、私は大災害の時も祈らないって言ってんじゃん!祈りを届かなくしてくれていいから。あんたのところの神様に一切、祈りが届かないようにしてくれていいの。私がいいって言ってんの」
男「そう言われましても。あ、大晦日には国民的行事のお祈り合戦もございますよ」
私「しらねーよ。別にあなたたちがいることは否定しないけど、希望する人だけのためにやってよ。そんで、その人たちだけからお布施を頂けば何の問題もないでしょうが。何を寝ぼけたこといってんだよ。つーか、詐欺だろ、詐欺!こっちがいらないって言ってて、祈りが届かなくてもいいって言ってんのに。どんだけあこぎな商売しようとしてんだよ。ほかにあると思う?こんな商売!」
男「……ございますよ!」
おしまい